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CANTUS

(LINN CKD432)

加藤訓子、待望のリンレコーズ第二弾は、エストニアの巨匠アルボ・ペルトをフィーチャー。トラックには、アルボ・ペルトの代表作四作品のオフィシャル打楽器編曲とスティーブ・ライヒの代表作ニューヨークカウンターポイントのマリンバヴァージョン(世界初)と英国の鬼才ハイウェル・デービスのマリンバソロ曲を収めたアルバム。

ワシントンポスト紙2013年リーダーズチョイス

第26回MPCJ音楽賞最優秀録音賞

CANTUS  (LINN CKD432)

  1. Fur Alina arr. for Vibraphone and Crotales | Composer Arvo Pärt | Soloist KUNIKO |  04:00
  2. New York Counterpoint arr. for Marimba  | Composer Steve Reich | Soloist KUNIKO |  11:14
  3. Cantus in Memory of Benjamin Britten arr. for Marimba | Composer Arvo Pärt | Soloist KUNIKO |  06:27
  4. Fratres arr. for Marimba and Vibraphone | Composer Arvo Pärt | Soloist KUNIKO | 08:10
  5. Purl Ground | Composer | Hywel Davies | Soloist KUNIKO | 11:24
  6. Spiegel im Spiegel arr. for Marimba and Bells | Composer Arvo Pärt | Soloist KUNIKO | 10:25

CANTUS  (LINN CKD432)

アルバム作りを通して~加藤訓子

 

kuniko plays reichに続いて第二弾のアルバムをだすことになった。ミニマルな世界、そして打楽器という無限な音色の世界観をもっと広げてみたいと思った。

まずはスティーブ・ライヒのカウンターポイントから最後に手がけることになったNew York Counterpoint(これでスティーブライヒのカウンターポイントシリーズを全編曲したことになる。)、オリジナルのNew Yorkという街の印象にはクラリネット(!?)、これは木製楽器であるマリンバしかないと思った。今や巨体とも言える5オクターブのマリンバ、その一台の音色を存分に使い、この曲の余すところなくすべてを表現したいと思った。

今まで作ったカウンターポイント三作品を通して学んだことを生かし、最後にマリンバ一台でMusic for 18 Musicianasのようなライヒの大きな世界観が出せるようにとアレンジから録音、そして数々のライブを通して、幾たびの思考の上出来上がった。

私が小さい頃から始めたピアノは手が小さいながらにジレンマを抱えながらも必死に向かっていた。そんなある日、出会ったマリンバであったが、その何とも言えない音の魅力に惹かれ、物心ついた頃、自分の意思で迷いなく選択して今が在る。時にはマリンバの可能性に限界を感じ、全く触ろうとしない時期もあった。ソロ活動を続けるようになって改めて楽器と向かい合い、今となってはその音色の幅広さに毎日驚きを持って接することができる。自分の音楽の中では欠かせない存在であるマリンバがどんな可能性を持って謡うことができるのかを改めて聴いてみたかった。それがこのアルバム・タイトル「CANTUS」にも込められている。

ミニマリストと言えば、まだまだ名前があがる作曲家もいるのだが、アイデアを深めてゆくうちに、ペルトの究極にシンプルで美しく、哀しくまた優しい荘厳な音の世界に引き込まれていった。(ペルトをミニマリストと呼ぶには少々語弊があるかもしれないが?)その昔、15年程前に私がベルギーにいた頃、世の中の話題になりつつあるペルトの音楽を一人過ごすアントワープのフラットの何とも言えない夜の静けさの中でよく聴いていたものだ。これほどシンプルで美しい音楽というものがこの世に存在するだろうか。70年代にはすでに独自の音楽法を築き今や世界的にメジャーとなったペルト、改めて聴いてみるとその新鮮さに深い驚きと感銘を覚えずにはおれなかった。今回は素直にその世界にどっぷり浸ってみようと思った。

選んだ曲は、ペルトの世界を知る人なら分かるポピュラーな楽曲ばかりである。ペルト自らが様々な楽器に編曲しているものも多いが、その先にあり得ないだろう打楽器への編曲を試みた。彼の世界観には人間の持つすべての感情、思想、それを包み込む自然のとてつもない大きな力や厳しさが組み込まれているように思う。究極なミニマリズム、その中にメロディがあり、ハーモニーがあり、誰もが先入観を持たずに聴いたとしても、その音がどこからともなくすっと心体に浸透してくるのを感じるだろう。時には走馬灯のように過去がよみがえり、無意識にふと涙がこぼれそうになったりするのは何故だろう。

喜び、悲しみ、憎しみ、強さや弱さ、あらゆる人間の感情すべてを表現できるもの、誰を傷つけることもなく、そして万人に公平に伝えることのできる手段として音楽というものがこの世に存在するのではないだろうか。自然の大きさすべてを優しさと言えるなら、それに包まれた私達はその中で無条件に生かされている。自然に反発しようとも打ち勝てる者は、地球上に存在しない。私達はその中に身を委ねるしかない。

そんなペルトの世界観が打楽器で表現できるものか、とてもかけ離れた世界にあるようにも思うが、敢えてそこに挑戦したいと思い、奏法、録音法、空気感などあらゆる手を尽くして音色作り、音楽創りを考えた。と言っても何か気をてらったことをするわけではない。至ってノーマルな奏法でどこまで幅広い音色を創り出せるか、そして録音という形で、どれだけそのままを収めることができるかを重要視した。

何かというと難解でとっつきにくい思われがちな現代音楽や打楽器の世界が、どんな人の耳にもすっと入ってしまうのではないかと期待している。またオリジナルとの違いなどをそれぞれが思い思いに楽しんで味わってもらえばと思う。

こんなに平和な何不自由のない現代でも、人間と自然とが共存するこの地球上では、色々なことがおこりつつある。自然界に翻弄されながらも人間はその知恵を使い、感情をぶつけ合い、自分たちで創り上げた現代の人間社会の中で生きる術を模索している。どんな世の中になっても如何なるきっかけでも素晴らしい音楽や音に触れた時の喜びはこの上ない。自然の恵みとしての音楽が、まるで満天の星空のような音の輝きとしてふりそそぐよう、時にはその音の渦に身を委ね、すべてを忘れ、一瞬だけでも安らかな気持ちになってもらえれば嬉しい。

レコーディングの過程からミックス作業、このアルバムが形になるまで、またもや泣いたり笑ったり、本当に色々なことがあったが、私のしつこい音創りに大きな理解を示し、最後まで支えてくださった方々、同時に現時点における最高の音を収めるために最高のシステムと技術を実現して下さった皆様へ心から御礼を言いたい。

 

Arvo Pärtに捧ぐー

アルバムを仕上げるにあたって、エストニアに居るアルヴォとのやり取りが始まった。彼の生身の声を聞き、もっと原曲というものを深く理解しなくてはならないと痛感するとともに、その一言一言を各曲の細部に一つ一つ丁寧に反映してゆくと、見事に音楽が実味を持って変わっていったことに驚きと感動、そして感服させられた。40年近くも前の一曲一曲、一音一音、フレーズ、作品全体に魂が宿っている。そこには言葉に表せないほどの深みと慈しみ、生み出した作品に対する愛情というものが込められていた。こうして一歩でもオリジナルに近づくことができたことと、更に新たな息吹として世に出せることへ喜びと感謝の気持ちでいっぱいである。

私のアレンジを寛容に受け入れてくれ、このアルバム・プロジェクトを応援してくださったエストニアが生んだ偉大な作曲家アルヴォ ペルトに心から感謝と敬意を表したい。

 

Speigel im Spiegel~Fratres

真夏の横浜、港際に佇む倉庫街、元郵船倉庫であったBankArt NYK studioはクリエーション、そしてアートの発信の場として知られる。(実は私の日本のアトリエもここから徒歩圏内にあったりする。)その中にある一角のだだっぴろいスペース、むき出しのコンクリートは黒く、エアコンがないせいか、カビ臭い。電力も十分でない上、ノイズ対策のため録音時は手元ライトのみ、暗黒の世界に包まれ、1フレーズ演奏するごとに汗がじわりとにじみ出る。まるで孤島にある牢獄にでもいる気分である。

私のアルヴォ・ペルトの構想はここから始まった。

何故ここを選んだのかというと、それはこの異常なほどの残響と余韻である。なかなか日本ではこうした響きには馴染みがない。西洋であれば教会へ行けばすぐにそうした空間に身を置くことができるだろう。(当然だが日本には別の意味での静や間というものがある。だがそこには響きというものはなく、在るのは無の境地である。)私なりにペルトの音楽は単にレコーディング・スタジオの環境や響きの整った所で創ってゆくのではなく、もっと時間の流れが止まっているような、まるで中世の教会でのある時代の出来事のようにしたかった。

また打楽器には大きなハンディがある。どうやっても一打点でしかなく、その生音一音がどれだけ永く広がり、色彩豊かな世界観を表現できるのだろうか。

Fratresのmonkの行列、Alinaの孤独感、Cantusの天上から降ってくるような壮大なイメージ、spiegelの語りかけるようなアルペジオやピアノのペダルのサスティーン、こうした様々な音の景色をどれだけアコースティックな響きで表現できるだろうか。環境ノイズの問題とも戦いながら、この構想を実現するための録音が始まった。

生かされる音、殺される音、様々な音の変容を見ながら、BankArt NYK Studioからアルバムに生かされているのはSpiegel im SpiegelとFratresのソロパートとも言える、曲の基となるマリンバの三和音のコラールである。

針の先ほどのタッチでマリンバを奏でてゆくとその一音がまるで水琴窟のように不思議なくらい永く永く拡がった。

 

Für Alina~Fratres

次に訪れた長野県安曇野の小高い山にある小さな教会。背中に迫るステンドグラスの窓枠にたくさんのてんとう虫の音がちりちりと線香花火のように音を立て、私の頭を背後から包みこむ。さほど天井高もなくそれほどにも響かず、何となく孤独感も感じつつ、季節は秋も終わる11月、外はまだ銀杏の葉も落ちきらず、葉の擦れる音や鳥の声、空を見上げると真っ青な空に黄色の葉がまぶしかった。

時間の制約がある夜中のレコーディングは、厳しい寒さとの戦いとなった。延々と引き続けるarco=弓の音、小さく小さくただ響きだけのためのトレモロ、Alinaはそんな中で生まれた。

 

Cantus~New York Counterpoint~Fratres~Purl Ground

今回の最大のチャレンジでもある多重録音、New York CounterpointとCantusは相模湖交流センターのホールで録音した。癖がなく、適度なアコースティックの響きもある。多重録音をするにはスタジオの方が向いているのかもしれないが、やはりスタジオにはない空気感がどうしても必要だった。ここは、両方を兼ね備えているだろうという強い確信と期待を持ってこのホールに入った。

ニューヨークカウンターポイントは、以前叶わなかった冒頭や曲中に被さるウェーブサウンドの広がりと全体の世界観、クラリネットでは横に繋がる二楽章の一音一音を単にトレモロなどでなく、マリンバ特有の柔らかな響きで繋げてゆきたい。勿論、電気的処理などではなく、すべてをイメージ通りに自分の手で生み出した音や演奏から創りたかった。各楽章ごと、各パートごとマレットのチョイスで色彩感を組み立てた。バスクラリネットのタンギングはアフリカのバラフォンで使うような大きなゴムのマレット、後半のシロフォンのような音はマリンバの高音部でマリンバマレットの中味をむき出しにして使った。

すべて一台の5オクターブマリンバとマレットの組み合わせによるナチュラルな楽器のサウンドで構成されている。

Cantusでは、マリンバ特有のトレモロがおぞましくでないように、通常の奏法でなく、二本のマレットで音板を挟み、すべてのパートを一切ダイナミクスを変えずに最初から最後までオールピアニッシモで引き通した。そして各パートに書かれているダイナミックス記号が一つ増えるごとに一つパートを増やしてゆく。おかげでオケだけでも計27パートになり、録音時にはサラウンド用として立てたマイク数で数えると200トラックを軽く超えてしまった。

天からこぼれ落ちる半透明な石の粒子が、頭上からふりそそいでは足元に広がり、また落ちては繰り返し繰り返し幾重にも折り重なってゆく。やがて地の深いところで大きな裾野を広げたマグマのようなうねりは、まるでオルガンのように、時には人の声のように祈りとして絶対的な支配力ですべてをのみこんでゆく。

この相模湖交流センターではPurl Groundも収めた。アルバムの中で唯一のマリンバソロ曲。Hywel Daviesは近年のkuniko plays reichのライブ活動の中で出会ったイギリス人作曲家。マリンバの特殊な倍音で綴られるコラール、曲の最初から最後までオールトレモロ&オールピアニッシモ、ラストは大きな鐘の余韻のような独特な低い響きが延々と続く。そうした彼の意図するhumが出るまで何度もテスト・テイクを繰り返し、とことん時間をかけてレコーディングした。今でも目をつむると、湖畔から見下ろした水面にきらきらと光る太陽がゆらぎ、そこに音が網目のように幾重にも交わっては離れ、様々な色に変化して行く様が浮かんでくる。

 

© kuniko kato, 2013

Recording Info:

Recorded at The Lake Sagami Hall, Kanagawa, Japan, BankART 1929 NYK Studio, Yokohama, Japan, Church at Hotaka View Hotel & Resort, Nagano, Japan.

 

All tracks are recorded at 192kHz / 24bit audio.

Recording Engineer: Yuji Sagae & Junichiro Hayashi

Produced and Mixed by Yuji Sagae & Kuniko Kato

Mastering: Bastiaan Kuijt, BK Audio, NL

Executive Producer: Philip Hobbs at Linn Records

Photography: Mario Boccia, Michiyuki Ohba

Designed by: gmtoucari.com

Production Coordination: Kim Campbell at Linn Records

 

Special thanks:

Seiji Murai, Tsuyoshi Yasukawa, Michio Akiyama, Anna Suzuki, Yoichi Toishi, Yumiko Tanaka, Natsuki Urushibata, Takafumi Oike, Makoto Ohara, Shoichi Kado, Akira Fukada, Seigen Ono, Yasushi Tanaka, Norio Sato, Taimi Paves, Eric Marinitsch, Aygün Lausch, Andy Ito and Cathy Jefferies at Linn Records, ADAMS, Pearl, RME-Synthax Japan, MI-7Japan, Steinberg, CottaTV, Sanken, Fujitsu-Ten Corp, Saito, Lake Sagami Hall, BankART 1929, Hakuju Hall, Hotaka View Hotel, Boosey & Hawkes, Universal Edition AG, Arvo Pärt Center and Istituto Giapponese di Cultura in Roma.

Credits:

All original music and supervision by Arvo Pärt, Steve Reich and Hywel Davies.

Cantus in Memory of Benjamin Britten, Für Alina, Fratres, Spiegel im Spiegel, Arrangement for percussion instruments by Kuniko Kato  ©Copyright 2013 by Universal Edition A.G., Wien

New York Counterpoint ©Copyright 1987 by Hendon Music, Inc.

This arrangement made by permission of Boosy & Hawkes Music Publishers Ltd.

LINN_CMYK_White copy

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